第10回 シニア市場掘起し 若者商品でシニア市場を狙う

シニア市場掘起しについて、前回は「既存商品でシニア市場活性化」についてご紹介しましたが、今回は「若者向け商品がシニア市場狙う」についてご紹介します。

若者商品の市場成熟でシニア市場開拓好機

今までシニアとは関係の薄かった若者商品が、市場成熟化に伴い更なる拡大に向けシニア市場を開拓。またシニアの体力変化を好機と捉えシニア市場を狙い始めた事例です。
スマートフォン、フリマアプリ「メルカリ」、電動アシスト自転車 の3つの若者商品事例から企業のシニアアプローチを探りました。

事例①スマートフォン

スマートフォン

日本にiPhoneが登場したのは2008年7月。その後急速に普及率が上昇したことは「第7回 消費元気なシニアの攻略 シニアのネット消費急伸」で触れました。

一方、そのスマートフォンの生産台数は約3,000万台(2018年)で2017年より200万台減になりました。更に2019年には300万台減が見込まれ、スマートフォンの高普及率ゆえに生産レベルでは停滞市場になりつつあります。

そこで2018年頃から各社から「シニア用スマートフォン」が登場し低普及率のシニアに対して拡販開始されました。加えてシニアが多く所有するガラケー層へのスマートフォン代替攻略も強化されました。未だスマートフォンを所有していないシニアの中には孫と写真を撮ったり、SNSを使ったりなどスマートフォンを使ってみたいと思う方も多いと思われますが、一方では高価格であることや操作の難しさ、あるいはパソコン代用で済むなど、乗り換えがネックになっている面もありそうです。

いずれにせよスマートフォン販売各社はシニアを照準に割引プラン導入、サポート体制強化(無料スマホ教室、購入後のお店・電話・メールでの相談、サポートアプリ用意)など販促活動が活発になっています。その結果、2019年1月現在の調査(NTTドコモ、関東圏)によると、70代のスマートフォンの所有率は4割強と高まり、ガラケーの所有率を逆転しました。

スマホ保有率

更に、最近のコロナ禍でスマートフォンの所有だけでなく使い方が多方面に広がっており、益々シニアのスマートフォン所有は高まりそうです。

シニアライフ総研が行った「コロナ渦シニアの行動変化調査(全国の男女55~87才666名/2020年5月下旬調査)」によると、コロナ禍により時間が増えたコトとして、「PCによるインターネットの利用」(40%強)や「スマホなどのモバイル端末によるインターネットの利用」(約20%)が突出して高くなっています。また新たに生活に取り入れたこととして、「スマートフォンでの新たなアプリ利用」(10%弱)、「積極的な情報収集」(約10%)、「PCやスマートフォン、タブレットなどでのゲーム」(約5%)、更には買物では通販利用増(10%強)などを挙げています。

このようにスマートフォンの便利さはコロナ禍で一気に拡大したわけで、便利なことは間違いなく習慣化されますので、シニアにおけるスマホの利用はさらに高まりそうです。

>>>コロナ渦シニアの行動変化調査

企画のヒント

ここ数年、各社のシニアアプローチはかなり積極的で60、70代のスマートフォンの普及率は急激に高まっています。コロナ禍を考えると更に高まる可能性も考えられます。しかし一方では現状で満足しているシニアが多いのも事実です。

そのため、シニアに浸透しつつあるスマホのこれからの新規開拓の可能性を探る必要があります。現在大手3社や低料金販売会社の販促は活発ですが、ガラケーからスマートフォンに換えるだけの魅力が彼らに伝わっていないのかもしれません。スマートフォンを所有するためのソフト(シニアにとって楽しく使うには?)、ハード(使い方)、料金のシンプルな説明を改めて推進することが大事かもしれません。それが理解できた時点での伸びしろはどのくらいあるかを探ることも必要だと言えそうです。

また、コロナ禍でシニアが新たに利用し始めたスマートフォンの魅力(情報収集、アプリの魅力、ゲーム、ネット通販など)をスマートフォン未所有層に対していかに上手に伝えるか、カギになりそうです。

もう一つ、3G系のガラケーの終了予告が発表されています。その代替をいかに促進させるかにありますが、その時の代替可能率の把握も必要になります。※au「CDMA  1XWIN」は2020年3月末終了。ドコモ「FOMA」2026年3月末終了。ソフトバンクは検討中。

事例②フリマアプリ 「メルカリ」

フリマアプリ「メルカリ」

ここ数年で急成長し、2018年は一大ブームにまで盛り上がった中古品売買仲介のメルカリ。この急成長の原動力となったのが20~30代の女性を中心とした利用層でした。競合の動きも活発で、ヤフオクは買取手数料無料(2017年11月)で対抗し、楽天は傘下の2つのフリマアプリ事業を統合してラクマ設立(2018.2月)で対抗を強化しました。

しかし、メルカリ内にも課題があり、アプリダウンロード数は9000万に近いと言われていますが、月間利用者数は2018年4月で1667万人、2019年4月で2216万人と大幅増を果たしているものの、ダウンロード数に対する割合は2割強と低く、競合に流れている数も多いのかもしれません。

そのようなこともあり、メルカリは2018年2月にオンラインでリーチ(到達)できない層(主に40代以上)へアプローチするため、北海道と愛知で新聞折込チラシを開始。その内容はメルカリを知ってはいるが取扱いが分からない人への告知で、「冬本番!アウター大特集」や「徒歩0分。スマホの中でオープン」とスーパーのようなチラシデザインにし、裏面には「メルカリ出品マニュアル」として売るためのポイントから発送に至るまでの流れを説明。このチラシは、メルカリのことを分かっているようで分からないことが意外と多いという前提で作られたようです。

このチラシ効果はあったようで、2019年には関東圏を含む10エリアに拡大して展開しています。また使い方教育を自社単独や他社と組んで展開していますが、2019年10月にはシニア攻略を進めるドコモと提携し60~70代を対象としたスマホ講座でメルカリの使い方を100店舗で展開しました。最近では60代以上の利用者が急増しているとの事です。

彼らのメルカリ利用の目的は「生前整理」や「終活」のキーワードで出品されている商品が1年間で2.5倍(2018/2017)になったと言われています。時代の傾向がシニア対策をバックアップしたとも言えます。

また同社の60代層への調査によると、フリマアプリを利用している人はチャレンジしたい層が多く、特にスポーツ、社会貢献に意欲的で、いわゆるアーリーアダプター層(初期購入層)ともいえ、うまくいくとフォロワー(追随層)にもフリマアプリが広がる可能性が見えてきたようです。

企画のヒント

若者を中心に急成長した市場ですが、競合の動向やこれからの市場性を考え、メルカリは先手を打ってシニア市場を攻略したといえます。好都合にシニア層の利用が急増し、その人たちはアーリーアダプター(初期購入層)層が多いとの事。しかもシニアのメルカリ利用の目的は「終活」という社会的テーマでもあります。今後はアーリーアダプターからフォロワーへの移行期ともいえるため、フォロワーに向けてどのような販促を展開すればよいかの検討時期といえます。

上述のスマホの販促でメルカリはドコモと提携して使い方講習会を各地で展開して効化を挙げています。これからも若者商品のシニア攻略は功を奏しているようですので、そのような企業とのタイアップ販促は効果が見込めそうです。

事例③電動アシスト自転車

電動アシスト自転車

電動アシスト自転車はパナソニックをはじめ各社から販売されており、現在の主購入層は30~40代女性、子供を乗せるママチャリ、あるいは坂道のある地区でのニーズが高くなっているようです。

しかし近年、高齢者の自動車事故がマスコミで報道され、社会問題になっています。それに呼応するようにシニアの運転免許返納者が増加傾向(2019年60万件)にあります。そこで自転車販売チェーン店「あさひ」は自動車免許返納者に対して電動アシスト自転車の値引き販売(10万円以上商品から5000円引き)を開始しました。

同社は既にシニア対策として豊富なシニア自転車の店内展示、自転車選びや試乗に専門スタッフがサポート、購入後のサービス、無料点検、修理、保険、出張修理など実施していますが、更にシニア販売を強化したものといえます。

一方でシニアが購入するには難点もありそうです。免許返納後の自転車はシニアの脚として強い味方になりますが、「あさひ」をはじめホームセンターなどの販売店が意外と自宅近くになく、ネットでの購入では相談しにくい面があり、試乗や商品選択、購入、そしてサービスに不安が残りそうです。

またシニアの脚といえども10万円は少々高額で買いにくく、更には二輪車、三輪車と種類はあるものの、万が一の転倒、怪我の心配、交通事故の心配などマイナス点が想像できます。

免許返納という新たな市場創出機会だけに、できればメーカーと一体となって拡販規模を拡大し、社会的認知向上を図ることがシニアという大きな市場掘起しに繋がりそうです。

運転免許返納者への他社販促

  • 廃車買取サイト「廃車買取おもいでガレージ」はシニアの運転免許自主返納者に買取プラス金額で対応。普通自動車にはプラス5,000円、軽自動車にはプラス3,000円で買取を行っています。
  • イオンは高齢者顧客が多いこともあり、免許返納者増に伴うシニア集客対策として最寄駅からのシャトルバスを用意しはじめています。

企画のヒント

電動アシスト自転車の主購入層は30~40代女性、子供を乗せるママチャリ、あるいは坂道のある地区でのニーズが高いということですが、シニアの運転免許返納者増加は自転車業界にとっては大きなチャンスともいえます。社会現象をうまく捉えることはビジネスチャンスといえますが、大型チェーン店の「あさひ」が展開しても、その認知の広がりには限度がありそうです。

そのため、小売業とメーカーのコラボレーションによる販促がビッグビジネスの入り口になりそうです。また、シニア商品販売店での異業種提携販促も効果がありそうです

 

2020年7月


プロフィール

mr.kaneko3

金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。

WEBサイト:市場攻略のスゴ技発見


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