第35回 株式会社 明治

「明治メイバランス」シリーズ初の宅配専用商品
One to One のサービスが強みの
宅配事業で拡大を目指す

食品開発本部 中島綾子氏
マーケティング本部 小池康文氏、安元敬亮氏

 

株式会社 明治の、長い歴史を持った「明治メイバランス」シリーズ。その種類は現在80種以上にのぼります。
今回はその「明治メイバランス」について、この春から新しくはじまる取り組み・展開も含めたお話しを伺いました。

2021年3月取材

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左から小池氏、中島氏、安元氏

Q.明治といえばお菓子というイメージで子どもの頃から身近なブランドですが、それとは少し異なる医療系のジャンルに着手されたのはどういった背景があったのでしょうか?また、このジャンルに積極的に関与して行こうとされたきっかけは何でしたか?

(中島氏)
1980年代に発売された「YH 80」という商品(YHはヨーグルトYogurt・ハニーHoneyの略)が弊社の流動食の始まりでした。「明治メイバランス」が生まれたのは1995年ですが、流動食に関しては「明治メイバランス」が発売する前から少しずつスタートさせていました。
「明治メイバランス」は、もともと病院や介護施設で使われている口から食べることができない方の栄養補給のための商品です。今ではアイスやゼリーといったものまでラインナップが広がり、80以上の「明治メイバランス」シリーズ商品があります。近年はできるだけ口から食べることを推奨する動きが高まってきており、「明治メイバランス」も飲むタイプだけでなく、ゼリーやアイスなど、お客様のニーズに合わせて様々な形態の商品を展開しています。

(安元氏)
元々の始まりは先ほどお話に出てきましたヨーグルトと蜂蜜を使用した「YH 80」という商品で、ヨーグルトという素材を応用していこうというのがきっかけです。
「明治メイバランス」の話をする際に切っても切り離せない話なのですが、ある男の子が全身大火傷を負ってしまい、病院へ運び込まれ、医師がお腹に優しくて栄養豊富なヨーグルトでなんとかこの男の子を救えないかと当社に問い合わせをしたことが歴史のはじまりとされています。栄養豊富なヨーグルトとカロリーが高い蜂蜜を投与することで男の子は一命を取り留めました。その後その栄養補給の手法が広まり、医師から商品化して欲しいという声をいただいて商品化に至りました。
チーム医療の考えが進み、医師や医療・介護従事者が一丸となって医療を行っている医療機関、介護施設が多いですが、今でも医師の先生方だけでなく、医療・介護従事者の方々のお力を借りて商品を開発したり、お客様に伝える活動をしたりしています。

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明治メイバランスシリーズ

 

 

Q. ドラックストアの栄養補助食売り場で多く「明治メイバランス」を見かけますが、B to C に向けて展開された際の工夫点、売り方で何か気をつけてらっしゃる点や、意識されている点は何でしょうか?

(安元氏)
高齢化が進み、高齢になっても住み慣れた地域と自宅で過ごしながら療養をされたいと希望する方のボリュームが増えたことや病床抑制による医療費の削減を背景に在宅医療・介護の流れが進む中で、手軽に店頭で流動食を買えるということが価値になるのではないかと考え、明治メイバランスの市販化を進めました。
この商品は、お客さまに商品の良さを理解していただく必要がある商品なので、販売スタッフの方への勉強会を開催するなど、(展開する)ドラッグストアさんと手を組みながらしっかりと丁寧に販売をしていきました。元々は介護食というカテゴリーの中でお食事がとりづらい方のニーズを想定して販売しておりましたが、ご購入いただくお客さまが増えていくにつれ、「介護食という狭い世界だけにとどまらない価値があるのではないか」と考え、栄養補助の観点からの提案を行っていったところ、流通様からもご賛同頂き、栄養補助食売り場にも置いていただけるようになりました。

Q. 購入者としては介護をする方と介護をされる方、どちらを想定してこのような商品展開にされたのでしょうか?

(安元氏)
両方を想定しています。実際に飲用する方に対しては、おいしく飽きずに飲んでいただきたいという思いから、味の改良を重ねています。一方で、医療機関で使用されているという安心感や、「明治メイバランスMiniカップ」については独自設計の「小型カップ」と蛇腹のストローで、介護するご家族が使いやすいような商品になるように考えています。
ですので、どちらか一方を想定した商品展開ではなく、介護者・被介護者どちらも重視し展開しています。

 

Q. 「明治メイバランス」のスタート時、1980年代の介護は小さな市場だったと思いますが、当時から社内でマーケット・事業として評価に値するものという位置づけをされていたのでしょうか?

(安元氏)
弊社にはヨーグルトや菓子をはじめ様々な商品があり、市場トップシェアのメガブランド商品も多々あります。 「明治メイバランスMiniカップ」もトップシェアではあるものの、市販における売上がまだ小さいのも事実です。しかし、社内で非常に重要なブランドとして位置づけられている実感があります。この商品は、栄養で社会に貢献できる商品として、研究・開発から販売まで、力を入れて取り組んでいます。

Q. 「メイバランス」というネーミングには何かストーリーがあるのでしょうか?

(中島氏)
「メイバランス」は、明治(“メイ”ジ)の“バランス”の良い栄養食品という意味合いで名付けられています。
始まりは1つの商品でしたが、医療従事者や患者さま、そのご家族のニーズにお応えできるよう、今では80種類以上のラインナップを揃えており、医療現場でいちばん使われている栄養食ブランド※に成長しました。
「明治メイバランスを使っていれば安心」と思っていただけるようにこれからもお客様のお声にこたえていきたいと思っています。
当商品群は、用途やニーズに応じた栄養設計、ラインナップ、味、物性、使いやすさや識別性・安全性を重視した容器などに配慮をして開発をしています。
※ (株)シード・プランニング「2019年版 高齢者/病者用食品市場総合分析調査」における病院・介護施設での経口栄養流動食(容量125ml以下のリキッドタイプ)シェア(2016年4月~2019年3月)

Q. この2021年春、新商品が出ると聞きましたが、開発の背景をお伺いできますでしょうか?

(中島氏)
この春から「明治メイバランス」の宅配専用商品を販売します。
「明治メイバランスMiniカップ」の販売開始後、お客様からは「1本で栄養素がいっぱい摂れるのは嬉しいです。」という声をいただいた一方で、「1本で200kcalは多すぎる」、「味が濃いので飲みづらい」と言うご意見もありました。しかし「宅配で定期的に届けてくれるのは、体のメンテナンスが習慣化できて良いと思います」という声が後押しとなり、宅配に1番マッチする「明治メイバランス」は何かを考え、明治の強みである「ヨーグルト」にたどり着きました。
皆さまの期待に答えられる味に仕立てるということ、これだけの栄養素をわずか100mlの商品に入れるということには苦労が多くありました。「明治メイバランスで培った栄養設計技術」、「ヨーグルトの健康価値とおいしさ」、「定期宅配による習慣化」・・これらを合わせたのがこの商品です。

(小池氏)
商品設計にあたり、1回で飲みきりやすく、ひんやりした口当たりが好評の小型タイプのビン入りの商品にしたいと社内で提案しました。しかし、ビンに本商品を充填すると、光が当たることで様々な栄養素がダメージをうけてしまうという問題に直面しました。その課題を開発チームがクリアしてくれたことで、発売に至ることができました。

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明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用) (2021年4月5日発売)

Q. 昔からある牛乳配達などの宅配サービスが減少した中、今もう一度力を入れられるにあたって新しくネットワークを構築されたのでしょうか?

(小池氏)
1970年代からスーパーやコンビニが台頭していくことで急激にお客様軒数が減り、宅配事業存続の危機でした。しかし、宅配専用商品の開発や保冷可能な受箱の導入、さらには配達員の営業活動時間のシフトチェンジなどに取り組んだ結果、V字回復をしてきました。現在では全国250万軒のお客さまにお届けしています。最近の例で申しますと、小型ビンタイプの「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ(以下、「R-1」)」において市販品とは差別化した中身で発売することで、スーパーで「R-1」を購入している方々が「宅配を届けてくれるほうが続けやすい」と、宅配に切り替えてくださる例が非常に増えているようです。

もちろんネットワークの構築・維持に関しては、全国3,000店の明治特約店さんと共同してそのインフラの構築を進めています。明治の特約店さんは我々の大切なパートナーであり、全国の高頻度定期チルド配達網は、当社の強みだと考えています。更なる価値創造に向けて、去年からワタミの宅食さんとも取り組みを開始しました。ワタミさんのお弁当を届ける時に「R-1」などの宅配商品も一緒に届けていただき、反対に明治の宅配商品を届ける時にワタミさんのお弁当もお届けするなど、お互いの顧客網を使いながら相互に送客し合うことで、お客様の健康的な生活をサポートすることを目指しています。
さらにこのコロナ禍でお客さまの健康意識が高まっていて、解約をするお客さまが減っています。新規営業時においても、在宅勤務や活動自粛による在宅率の向上でお客様との接点が増え、新規軒数も増加しています。2020年度は宅配事業の売上が非常に好調です。新商品「明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用)」の発売によって、2021年度も更に飛躍できると考えています。

(安元氏)
元々(商品と宅配に)親和性があるなと思いながら、商品的なブレイクができなかったというところを今回(の宅配専用「明治メイバランス」で)できたというのは非常に大きいと思います。

Q. これからの「明治メイバランス」宅配サービスに対する意気込みや思いをお聞かせください。

(中島氏)

「明治メイバランス」シリーズをヨーグルトに展開できることについて、チャレンジングな取り組みですが期待感も強く感じています。

「明治メイバランスMiniカップ」の市販展開をスタートした頃は医療従事者・介護従事者からの紹介でこの商品を購入していただく方がほとんどでしたが、近年では、お客さまご自身が店頭でご覧になって買っていただくというお客さまが増えています。しかし店頭ではすべてのお客様に直接、「明治メイバランス」がどのような商品なのかをお伝えすることはできません。その点宅配では、お客さま一人ひとりとお話して大切な情報をお届けできるため、この商品と相性の良いチャネルだと思っています。お客さまに気に入っていただき、「毎日飲みたい!」と感じていただけるよう、チャレンジしていきたいと思います。

Q. 宅配サービスのエリアや想定されるターゲットやペルソナはどうお考えでしょうか?

(小池氏)

エリアは全国です。ターゲットとしては、アクティブシニアとギャップシニアをメインターゲットとして想定していますが、私たちの中では年齢というよりその方の状態が重要と考えています。状態・気持ちで商品を選んでいただくことが必要なのかと思います。あまりシニア感を出さず、介護ということでなく、あくまで食事のバランスを整えるという面でアプローチしていく予定です。30、40代の朝食を抜いてしまったという方にも、栄養バランスを整えようという訴求の中で、シニア以外の層の獲得もできるのではないかと期待しています。
発売前にお客様見本を配布し、営業活動を進めていますが、非常に好評です。基本、特約店さんの営業活動と、Webでの「4本無料お試しキャンペーン」、 新聞広告等でのプロモーションを展開していく予定です。

Q. 今回ネットでのサービスの申し込みというところも重要視されているのでしょうか?また、デジタルマーケティングにおけるシニアの方々の反応をどう捉えられていらっしゃいますか?

(小池氏)

昔より随分シニアの方々のITリテラシーは上がっているかと思いますが、やっぱり新聞の方がリーチ率は高いと考えています。Webは30~40代、新聞は60~70代。「新聞に広告を出して、事務局を設置して電話受付対応する」よりは「Web広告を出し、レスポンス自動受付で、メール配信」の方が、コスト効率がいい…その辺のバランスを取りながら対応していこうと思います。
あとは、離れて暮らす親御さんへのプレゼント需要を狙っています。私も親が遠くで一人暮らしをしているので、宅配でお届け、支払いはこちらで、とこっそりプレゼントするつもりです。

Q. 宅配ビジネスというものの可能性や課題でベンチマークされたものはありましたか?

(小池氏)

宅配で言うと、ECサイトでの時間指定配達や、生協さんのような豊富なラインナップ対応もできないと思っています。我々の強みは週に2、3回という頻度でお客さんの家に行ってone to oneのコミュニケーションを取ることなので、そのコミュニケーションを商品と合わせて提案することで、地域包括ケアシステムの一翼を担う、予防活動に貢献していきたいと思います。「宅配で週に2、3回来てくれるから、見守りも兼ねているよね」、「コミュニケーションが社会との繋りとなって孤独にならないよね」といった、コミュニケーションとセットした新しい宅配モデルの構築を目指しています。闇雲に商品ラインナップを増やしていこう、「明治メイバランス」のシェアを増やしていこう、と言うことではなく、限られた商品の中でそこにプラスの価値を付与して戦っていきます。「離れて住む子どもよりも近くに住む牛乳屋さん」のような健康習慣のインフラにしていきたいです。
この商品の必要性をお客さま一人ひとりにしっかりと理解してもらうことが大切です。置けば売れる商品というわけではなく、しっかりと理解してもらいながらこの商品を取っていただくというのが、習慣化につながり、お客様の健康習慣に貢献できると思います。

 Q. 一定の説明と利用者側の理解・咀嚼があって、初めてコミュニケーションが成立して維持・発展していく商品ということでしょうか?

(中島氏)

そうですね。今回の取り組みが、お客様のヘルスリテラシーを高めるための一助になればと思っています。
3食しっかり食べているつもりでも、実は栄養素が十分に摂れていないことが多くあります。年齢を重ねるほど、食べる量が減るためその傾向は強まります。栄養素の不足が長く続くとフレイルなどへのリスクが高まるので、そうならないよう、予防的な取り組みを広めていきたいですね。

株式会社明治 

https://www.meiji.co.jp/

明治の宅配 

https://www.meiji.co.jp/takuhaimeiji/commodity/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

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