2021年6月23日 映画「老後の資金がありません!」前田 哲監督取材レポート

映画「老後の資金がありません!」
取材レポート

映画監督 前田 哲氏

前作『こんな夜更けにバナナかよ』で「介助」というシリアスな題材にもかかわらず笑いを交えて描いた前田監督が、「老後」というこれもシリアスな問題を取り上げ、再び笑いで包んで届けてくれます。

新作『老後の資金がありません!』にまつわる裏話から「老後問題」等を通して透けて見える日本の現状にも言及していただきました。

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Q.映画『老後の資金がありません!』の制作に至った経緯を教えてください。

TBSのプロデュサーから直接映画制作のお声をかけていただき、簡単なプロットを拝見しただけでしたが、面白いと思って関わらせていただきました。キャスティングについてはすでに天海祐希さん主演で決まっていましたが、私も天海さんがピッタリだと感じました。

その後プロデューサーとシナリオライターと一緒に原作(垣谷美雨著)と照らし合わせながらの脚本作りに取り組み、映画的にどういう風に膨らませていくか足し算引き算しながら1年ほどかけて一昨年の春過ぎに決定稿を仕上げました。

Q.老後問題について今回の作品以前に考えられていたこと、思っていたことがありましたか?

「老後2000万円問題」や麻生財務大臣の発言、それ以前にあった「年金不払い問題」などによって国の政策に対する不安や懐疑がありました。特に老後の問題は私の父母が高齢ですのでとても身につまされました。

普段から「子供と老人に優しくない国は亡んでいく」と思っていますので、映画を通してみなさんがもっと政治や行政に関わるキッカケとなり、社会を少しでも良くする方向に動けばと考えていました。

Q.「老後2000万円問題」では報道によって不安が煽られた側面があったように思うのですが、今作を拝見して「老後なんて工夫次第じゃないのかな」と肯定的な気持ちになりました。

メディアは少し不安を煽り過ぎたかもしれません。老後資金の問題について調べてみても4000万円ほど必要だという説や、私のようなフリーランスだと9000万円必要だという説もあって、どのようなレベルの生活を選択するかによって千差万別かと思います。そんな千差万別の中から作品の中には“シェアハウス”というそこに住む老若男女がお互い助け合う生活を選択するという設定を加えました。

図らずもこのコロナ禍で人間にとってコミュニケーションの大切さがあぶり出されたと思うのですが、かつての共同体のようにお互いが尊重して譲り合うということがどんどん失われ、不寛容になっている・・・ルールも大事ですが、もう少し大らかに過ごしても良いのではないでしょうか。

だから今後の生活の選択肢のひとつにそういう思いを込めましたし、草笛光子さんが演じる主人公の義母の象徴的なセリフ、「わがままに生きた方が勝ちよ」というのは、それぞれの違いを認め合った上でそれぞれの自由を尊重して上手く共生していく、そうした世の中になって欲しいという私の思いでもあります。

本当は国や自治体がそういう事をもう少し手厚くみるべきだと思うのですが、今はそういった事が疎かにされているように感じています。

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ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会

 

Q.『こんな夜更けにバナナかよ』もそうでしたが、シリアスな問題を笑いで包んで作るにあたって留意されたことは何でしょう?

辛いモノを辛いまま描いても仕方がありません。『こんな夜更けにバナナかよ』では「介助」「障がい者」というシビアな題材を取り上げましたが、それをストレートに表現するのは自分が観ても辛いし苦手なため、私は作りたくありません。ファンタジーではありませんが、「感情はリアルに、設定は少し、3cmか5cm浮いている世界」という作り方をいつも心掛けています。

コメディに拘っている訳ではありませんが、人間は生きていく上で希望や笑いが必要だと思いますから軽妙洒脱に、エンタテインメントな映画として描きたいと考えています。笑うことで人は元気になりますし、免疫力も高まると言われていますから。

Q.制作にあたって様々なリサーチをされたと思いますがいかがでしょうか?

私はフリーランスなので会社勤めの方と感覚が違うということもあって、知り合いの昔の同級生までかなり広範囲にリサーチしました。また主人公の夫役である建築会社の部長クラスの年収などお金に関してもきっちりと調べました。経済評論家の萩原博子さんの本も参考にしましたし、ご本人にも出演していただきました。設定も家族構成から家の立地、会社の規模、出演者それぞれの役の履歴書まで細かく作った上でどこまで映画上に反映するかのアウトプットをコントロールしました。

リサーチして実際の状況を知った上でどう“ウソ”をつくか・・・事実としてのノンフィクションを知った上でどうやって映画としてのフィクションに落とし込むか、ということです。

Q.監督はシニアの線引きをどこに置いていらっしゃいますか?

以前は60歳くらいと思っていましたが、今は70歳くらいをイメージしています。

今は私の周りにも元気なシニアの方々が多いです。草笛さんは撮影当時86歳でしたが、ヨガのシーンなど「CGですか?」と質問されるほどの動きをされています。草笛さんは誰よりも若々しく柔軟だし、いつも新しい企画を追いかけていらっしゃって、天海さんをはじめ我々はとてもリスペクトしています。共演していただいた毒蝮三太夫さんも非常にお元気でしたし、その娘役で共演の柴田理恵さんが「私たちより80代の人たちの方が元気で恐れ入りました。」とおっしゃっていたのが印象的です。

世間ではよく「老害」と言いますが、それは前例を踏襲するだけで慣習の名のもとに居座っている人たちのことであって、新しいことにどんどん挑戦しようという人たちはいくつになっても“青春”しているということではないでしょうか。

Q.監督自身は以前から老後問題を意識されていたとのことですが、今回の制作を通じて意識など変わったことがありますか?

草笛さんと出会って、新しい事に挑戦される姿勢にすごく刺激を受けました。その上で映画としては「介助」や「障がい者」そして「老後」を取り上げたので次は「介護」だと再認識しました。

「介護」≒「老後」ということで『老後の資金がありません!」と同じようですが、私の“振り幅”としてもう少しダークなモノを考えています。5月に公開していた『ファーザー』というアンソニー・ホプキンスがアカデミー賞を獲得した映画もそうですが、「介護」に関してはどんな形にせよ映画にしたいと模索しています。

実際私の父は軽い認知症で、意思疎通はできますが先月あった事も覚えていません。そういったことを悲観していても人生つまらないですし、父が私のことを忘れても私が父のことを覚えていれば良い訳で、そのように少しでも見方を変えられるような映画を作りたいと思っています。どこまで映画の力があるか分かりませんが、漢方薬のようにじんわり効いていけば良いと思っています。

Q.老後問題に関して企業に何か期待されることがありますか?

やはり一番は、定年制度を止めた方が良いということです。人は精神年齢や肉体年齢などそれぞれ違いますから、その違いを活かすべきなのではないでしょうか。年功序列も必要ないと考えています。映画のキャスティングやスタッフィングもそうですが、バランスが重要ということです。組織の中でいかに各人を上手く配置・活用するか、それがトップ・リーダーの差配の素養だと思います。

有名な話ですが、落合博光さんが中日ドラゴンズの監督に就任され、「ドラフトも何もしなくて、現状の戦力で優勝できる」と言われた時、選手たちは「我々は(優勝する)力があるんだ」って思ったはずです。そして実際にドラゴンズは優勝しました。

評価の低い選手を単に交換するのではなく、彼らのモチベーションを高めること、スキルアップをさせることはリーダーがちゃんと見極めてやっていくことではないでしょうか。翻って、今はまったく間違ったリーダーを選んでいる日本というのは沈没しそうです。そのリーダーを選んでいるのは我々ですから我々にハネ返ってきているといえるでしょう。

企業にも国にも求めることはリーダーの人選です。リーダーは一番厳しいポジションだと思います。「山は登れば登るほど風が強くなる」と例えられるように、上に行けば行くほど厳しく律しなければならないのに、単にそのポジションに行きたいだけの人が多いのではないでしょうか。挙句にコネや忖度などおかしなことが横行して・・・それが当たり前のような環境で育っていく今の子供たちを見ていますと、非常に情け無く思います。

小学生が見てもおかしな事をしている人(政治家)は替えるべきだと思います。みなさん諦めているようですが、たった10%投票率が上がるだけで政治は変えられます。今40%くらいの投票率を10%上げると全部の政治家の首をすげ替えられます。実を言うと「選挙に行こう!」といった映画を撮りたいという思いがあるくらいです。

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ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会


映画「老後の資金がありません!」

【公式サイト】 https://rougo-noshikin.jp/

【公式twitter】 twitter.com/rougo_noshikin

【公式facebook】 facebook.com/rougonoshikin/


 

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